コラム

不条理な日々

 91歳の徘徊老人が列車にはねられ、その家族にJR東海が損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は84歳の老婆に359万円の支払いを命じた。一審では720万円の賠償額の支払いを命じられたが、控訴審では鉄道会社側の管理責任も認めて減額されたという。
 それにしても、合点がいかない判決である。法治国家であるから、あくまで法律に忠実に、ということなのだろうが、相手は痴呆症状のある老人である。それに妻は84歳という高齢だ。老々介護の日々の中で、24時間管理せよ、というのでは人倫に反する。
 もし、この論理が正当であるならば、タクシーや宅配便のトラックの前に、ふらふらと出てきてはねられた痴呆老人の家族も、タクシー会社や宅配便会社から損害賠償を請求されることになる。そんな話はあまり聞かないから、おそらく鉄道会社が特別なのだろう。
 もし、痴呆老人を抱える家族の側に24時間の管理責任があるというなら、鉄道会社側にも、踏み切りには誰も入れないようにする監視体制が求められるのではないか。すべての踏み切りは即刻、空中か地下に移設し、線路には絶対に人が入れないように、ただちに高い柵を設けよ。そうすれば、鉄路に迷い込んだ幼い子どもや、ころんだ老人や、そうした人を助けようとした人たちが列車にはねられるなどという悲劇もなくなる。
 そもそもが国民の財産だった鉄路を我が物顔に使っているのに、そこに進入して事故を起こすとはけしからん!という考えが気にくわない。JR東海も今頃は苦情が殺到して、請求は諦めるかもしれんけどね。
 明日は、我が身である。カミュが描いた不条理の世界を、垣間見た気がした。

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